■ 学位 |
これまでの研究では、ポール・ヴァレリー(1871-1945)を中心に考察を進めてきた。ヴァレリーはフランス象徴主義に属する詩人であり、独自の詩論を展開した批評家であるとともに、半世紀にわたって書き継がれた思索ノート『カイエ』によって思想家の顔も持つ。また、ヴァレリーに大きな影響を受けた小林秀雄についての考察や、ヴァレリーが示した自伝的なものに対する両義的な否定をいわば受けるかたちで、生の痕跡(〈生表象〉)に対する近代的な諸制度(文学、学知)についての共同研究も主催してきた。
今後はヴァレリーについて、近年刊行が相次ぐ伝記資料や書簡を踏まえつつ、またステファヌ・マラルメなど他の象徴主義詩人たちをも視野に入れながら、研究を進めていきたい。同時に、こうした象徴主義研究がもたらすであろう文学的モデルニテの理解を梃子にして視野を広げ、その淵源を例えば18世紀後半の作家レチフ・ド・ラ・ブルトンヌに探る一方で、象徴主義の諸問題が20世紀の文学にどのように引き受けられ、応答されていったのかについても考えていきたい。