十九世紀から二〇世紀前半に至る西洋音楽史は、芸術音楽と娯楽音楽の分裂のプロセスであった。ベートーヴェンからシェーンベルクに至るドイツ絶対音楽は自律美学に基づく高度の音の抽象化を目指し、他方ヴィルトゥオーソ音楽やオペラは革命後の近代市民社会にブランド化された上流娯楽を提供した。この分裂の様相の分析を通してヨーロッパ近代精神に迫りたい。