術数学-中国の科学と占術

班長 武田 時昌

大唐陰陽書
『五行大義』背紙より

術数学は、自然科学の諸分野と易を中核とする様々な占術とが複合的に絡み合った中国に特有の学問分野である。しかし、包括的な見地からの考察がなされていないのは言うまでもなく、術数学を明確に定義し、その学問的輪郭を明らかにしたものすらほとんどない。

東アジア世界の科学文化を構造的に把握し、学問的な本質や特色を明確にするには、近代科学の先駆的業績として離散的な発見、発明を時系列に並べて顕彰するだけではなく、当時の科学知識がいかなる役割を担っていたかを分析的に考察する必要がある。そのような研究を遅滞させている最大の要因は、術数学がほとんど未開拓のままに放置されているところにある。そこで、科学、思想、宗教の諸分野の研究者を招集し、術数学を総合的に研究するプロジェクトを立ち上げることにした。

術数学の学問的起源は、先秦の方術まで遡る。漢代の思想革命において、陰陽五行説が儒家の政治思想に取り込まれていくなかで、方術から天文暦学、鍼灸医学、本草学といった自然科学が自立していく。ところが、方術的な自然探究のあり方がすっかり廃れてしまうわけではなく、中世、近世において子部術数類に分類される書物=術数書が多数著される。 したがって、易理、科学知識と占術の数理との理論的な関連性を解きほぐしながら、先秦の方術から中世、近世の術数学への変容がどのようなものであったのか、多角的、複眼的な視座から検討しなければならない。その手がかりとして、近年出土した簡帛資料には先秦から漢代に至る科学や占術に関する論説が満載されていることが注目される。また、日本に残存した『五行大義』『医心方』や陰陽道資料にも、中世の術数書の佚文が多数引用されており、きわめて有益である。それらの読解を通して、術数学の全体像を解明し、理論構造の特色を探る。


所内班員
C.Wittern、高井たかね