啓蒙とフランス革命・I-1793年の研究

班長 富永茂樹

啓蒙とフランス革命
ドゥマシー画、《シャン・ド・マルスにおける最高存在の祭典(革命暦2年草月20日、1793年6月8日》、1794年、パリ・カルナヴァレ博物館蔵

ヨーロッパで18世紀をとおして成長してきたいわゆる「啓蒙哲学」は、世紀の終りになってひとつの重要な転機を迎える.すなわちフランス革命である。「啓蒙とフランス革命」と題する本研究は、しかし、啓蒙哲学が革命を生み出したとする単純な考え方に立ってはいない。また逆にフランス革命がこの哲学思想を継承するものであるという、当時から存在した観点も採用しない。

問題となるのは、啓蒙思想が革命の思想そのものへと転化すると同時に、革命の進展が啓蒙を変形させてゆく、そうした観念と政治との二重の転変のプロセスなのである。そこには、革命に接近してみずからを実現してゆく啓蒙、革命に接近しながらも到達できずに終わった啓蒙、革命を乗り越えていった啓蒙も見ることができる。

本研究では、したがって革命初期やテルミドール後の時期に革命をいわば「正当化」するために多数登場する、啓蒙にかかわる言説と表象の分析を行うものではない。むしろ思想そのものに内在する政治の論理を明らかにすることがめざされるだろう。そうした作業をはじめるにあたり、まずはフランス革命の絶頂ともいうべきモンターニュ派独裁期のいくつかのテクスト(ロベスピエール、サン=ジュスト、ビヨー=ヴァレンヌなど)の読解を行い、そこから遡って啓蒙の世紀末における様態と力学を探るといった手順がとられる。

なお、タイトルからはフランス革命に限定されるように見えるが、それはフランス語以外の言語圏を排除するものではけっしてない。ドイツ、イギリス、合衆国などにおいても、革命にかかわる重要な哲学的課題が見つかることはいうまでもない。その意味で本研究は全ヨーロッパ、さらにはアメリカへと視野は広がることが予想される。


所内班員
王寺賢太、田中祐理子、立木康介、藤井俊之